2013年10月

2013年10月01日

ネジが出る

フルートを初めて手にしたのは、

小学3年生の時。


遠くに住むおじいちゃんが買ってくれたものだった。


フルートは銀でできていて、

黒くて固い立派なケースに入っていた。


お父さんがそのケースに金色のペンで

私の名前を書いてくれた。

       花ウサギ


こんなにきらきら光るきれいなものが

自分のものだとは、信じがたく、

吹いたら汚れてしまう、と太陽の下で眺めては

せっせと磨いた。


そのうち慣れてきて、

こんなにやさしい音があるとは、と感動し

せっせと吹いた。


当時、男の子みたいに活発で勝ち気だったので

やさしいものに憧れていたこともあり、

やさしい音を出したら、やさしい人になれそうな気がした。


となりで一緒に吹いていた子は、

親戚のおさがりのフルートを吹いていて、

時々細いドライバーでネジをしめていた。


その手さばきに憧れて、

こんどはドライバーでいじってみたくなった。


その子に借りたドライバーで、問題もないネジをひっぱってみたら、

びっくりするくらい、にゅっとパーツが伸び出てきた。


それ以降、時々なぜかそのネジが不意ににゅっと出てしまう。

やってはいけないことをやってしまった、とネジをみるたびに反省した。

このことは、誰にも言わなかった。



高校に上がってから、あまり吹かなくなって、

大人になってからは、ほとんどケースも開けなくなってしまった。


       タバコ鳥

色々な人の助けをかりて、昨日、そのフルートが手元に届いた。

開けてみると、まだきらきらとしていて、

金色の文字も、一向変わらず立派だった。


音は、なぜだか心持ち太くなっていた。


なんとも感慨深く、今日は一日吹いて過ごす。

うれしいせいか、頭の酸欠までもがすこし心地よい。

        拍手カエル


そしていまのところ、ネジはまだ出ていない。         



drecom_comamimi at 10:48|PermalinkComments(2)TrackBack(0)